『自分の時間』 アーノルド・ベネット(訳:渡部昇一)

1日24時間でどう生きるか

今回改めて読み直してみましたが、いい本でした。
子供の頃にはわからなかったけど、大人になるとこの本のシンプルで強いメッセージが響きます。「仕事で(育児で、介護で、家事で、)忙しいけど、"もっと時間があれば" あれやこれをしたいのに」と思っている人に向けて書かれています。
それ、私? て思った方は、読んでみてくださいな。
すごく読みやすい軽さで書かれていて、1時間ちょっとで読めちゃいます。
(ときどき、翻訳本らしい言い回しが出てきて、慣れない人は読みづらく感じる箇所があるかも。でも、その辺はスルーしても本のメッセージはシンプルに届きます)


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この本が、その辺の「仕事術」「時間術」「できる人・仕事が早い人」系の本と違うのは、小手先のテクニック本ではなく、シンプルで根本的な、普遍的なところを突いてくるところかと。だから、職業とか老若男女問わず、仕事してなくても、読んで得るものがあると思うのです。

この本の初版は、1994年
今、古っ! て思ったそこのあなた。驚くなかれ。原著が書かれたのは、なんと1902-1908年の間。第二次大戦前ですよ。
だから本文中でも、今とは違うところがちょいちょい出てきます。"朝の通勤電車の中でタバコをくゆらせる" とか、いつの時代だよ! て。それでも、ここに描かれている典型的ロンドンの勤め人は、今の日本の大抵のサラリーマンと変わらない生き方をしているんじゃないかな。家を出た瞬間から疲れているはずもないのに茫洋として、仕事が始まれば終業時間をただ待ちわびるような。

国が違えど、時代が違えど変わらない、「もっと時間があれば・・・」という感覚は、たぶん人間に普遍的なものなんでしょう。

それにしたって、100年以上前の本じゃん、てお思いの方にはこちら。


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同じ本です。訳者も同じ。ただし、刊行は2016年5月11日の新装版
たったの3ヶ月前ですよ。
上の画像からAmazonに飛べますが、レビューがすでにいくつも付いていて、皆さん好意的。100年前の本だけど、その言わんとするところは全く古くない。それってすごいことだよね。

この本の冒頭に、
私は、「一週間を八シリングでいかに暮らすか」という記事は読んだことがあるが、「一日二十四時間でいかに暮らすか」という記事には、いまだにお目にかかったことがない。
という箇所があります。おそらく、今は世の中に溢れている「時間の使い方」本の、最初にして最も真理を突いた本がこの本です。

ちなみに、著者は非常にたくさんの本を書いた作家だそう。本も批評もこういうライフスタイル本もたくさん書き、かつ、派手に遊び。そんな充実した人生を送っていた彼が、自分のライフスタイルのコツをおすそ分けしてくれる、そんな本なんです。

サクッと読めますので、オススメします。

祖父語り

うちの祖父はよく私に本をくれました。
自分が読んだあとくれるのも、私に向けに買ってくるのもあったけど、これは祖父が読んだあとにくれた本。

こういう時、祖父は別に感想を求めません。読んだか、読んでないかも聞かない。
でも、たまに私が「この間の本さ・・・」なんて話をすると「お、読んだか」て嬉しそうな顔しながら中身について話す。そういう人でした。

本に挟まっていたレシートによると、この本が我が家にやってきたのは、1996年9月。1996年3月に出た第11刷だそうな。いまからちょうど20年前ですね。
もらった当時は私も中学生。「学ぶ・遊ぶ」がお仕事の時代だったもんで、"もっと時間があったら・・・" ていう感覚がまだよくわからなかったんだなぁ。実は大学生の頃にもなんどか本棚から引っ張り出したんだけど、なぜか「当たり前のことを読むのは時間の無駄」なような気がして、ペラっとめくって棚に戻しちゃってて。
だから、あまりこの本について祖父と話した記憶がないのです。大人になってから、もう一度読んで話せばよかったなぁ。

祖父が生きているうちに、「時間」についてもっと話したら楽しかっただろうな、と思う。一方で、亡くなってからも蔵書を通じて交流ができるっていうのは、なんだか贅沢だ、とも思う。

どうやら私にとって、祖父の蔵書を巡る「時間」も、自分の人生を豊かにしてくれる「時間」のようです。